なぜ展示会後フォローは失速するのか
展示会で獲得した多くの名刺が、成果に結びつかないまま放置されるケースは少なくありません。その背景には、いくつかの構造的な問題が存在します。
名刺が放置される構造
- 物理的なボトルネック: 獲得した大量の名刺をデータ化する作業が追いつかず、営業担当者のデスクに積まれたままになる。
- 情報共有の欠如: 名刺情報が各担当者に分散し、組織としての資産にならず、フォローの全体像が見えなくなる。
- 後回しにされる優先順 位: 日々の業務に追われ、展示会で接触しただけの確度の低いリードへのフォローは優先順位が低くなりがちです。
優先順位が曖昧
- 全件一律の対応: すべての名刺に対して同じようなアプローチしかできず、本当に注力すべき有望なリードを見逃してしまう。
- 担当者の勘に依存: どのリードが有望かの判断が、担当者の経験や勘に頼りがちで、基準が曖昧になる。
- 効果測定の不在: どのようなフォローが商談化に繋がったのかを分析する仕組みがなく、改善サイクルが回らない。
お礼メールがテンプレ化している問題
- 記憶に残らない: 画一的なテンプレートメールは、他の多くのメールに埋もれてしまい、開封すらされない可能性がある。
- 関係構築の機会損失: 展示会での会話内容に触れないメールは、相手との関係を深める絶好の機会を逃している。
- 「その他大勢」になる: パーソナライズされていないアプローチは、自社をその他大勢の出展企業の一つとして印象付けてしまう。
展示会後フォロー自動化の全体フロー
本記事で提案するのは、生成AIを「整理・スコア補助・ドラフト生成エンジン」として活用し、フォローの精度と速度を両立させる「半自動+承認」のフローです。完全な自動化を目指すのではなく、人の判断を的確なタイミングで介在させることが重要です。
| ステップ | 概要 | AIの役割 | 人の役割 |
|---|---|---|---|
| 1. 名刺入力 | OCRと手動入力を組み合わせ、名刺情報をデータ化する。 | テキスト認識、表記ゆれ修正 | 最終確認、手動補完 |
| 2. 情報整理 | 企業サイトなどから補足情報を収集し、データをリッチ化する。 | 企業概要、事業内容の要約 | 情報の取捨選択 |
| 3. 案件スコアリング | 設定された基準に基づき、各リードの有望度を点数化する。 | 基準に基づく計算、スコア付与 | スコアリング基準の設計・承認 |
| 4. お礼メール生成 | スコアと会話内容に基づき、パーソナライズされたメール文案を作成する。 | 文案ドラフト生成 | 内容の最終確認、修正、送信承認 |
| 5. 提案ドラフト生成 | 高スコアのリードに対し、課題に合わせた提案書の骨子を作成する。 | 提案骨子のドラフト生成 | 内容の精査、具体化、顧客への提示 |
| 6. CRM登録 | 全ての情報(スコア、ステータス、生成物)をCRMに登録する。 | – | 登録内容の確認、タスク設定 |
このフローは、スピードが求められる初期対応と、精度が求められる案件化のプロセスを両立させるための設計です。
入力設計(名刺情報の扱い)

全ての起点となる名刺情報のデータ化は、後の工程の品質を左右する重要なプロセスです。
OCRと手入力の役割
- OCR(光学的文字認識): 名刺スキャンアプリなどを活用し、基本的なテキスト情報を迅速にデータ化します。これは速度を担保するための手段です。
- 手入力: OCRの読み取り精度は100%ではありません。特に、手書きのメモや特殊なフォント、複雑なロゴなどは誤認識の可能性があります。最終的な確認と修正は、人の目で行うことが不可欠です。展示会での会話内容など、コンテキストを含む情報は手入力で補完します。
取得すべき最低フィールド
以下のフィールドは、後のスコアリングやパーソナライズのために最低限確保すべき情報です。
- 会社名
- 部署名
- 役職
- 氏名
- メールアドレス
- 電話番号
- 会社URL
- (手入力)展示会での会話メモ・課題感
AIに任せられる整形/任せない判断
- AIに任せられること:
- 「株式会社」と「(株)」などの表記ゆれの統一
- 住所の正規化
- 企業サイトのURLから、事業内容や資本金などの公開情報を取得・要約
- 人が判断すべきこと:
- 会話メモから読み取れる「課題の深刻度」や「導入意欲」といったニュアンスの解釈
- 名刺交換した相手のキーマン度合いの判断
案件スコアリング設計

スコアリングは、限られた営業リソースをどこに集中させるべきかを判断するための羅針盤です。
興味度・役職・課題感の整理
スコアは主に以下の3つの軸で設計します。
- 興味度(Interest):
- ブース滞在時間、デモへの参加、具体的な質問の有無など、展示会での行動から判断します。
- 例:製品デモを最後まで見た(高)、パンフレットだけ持ち帰った(低)
- 役職(Authority):
- 決裁権限の有無や、関連部署の責任者であるかなど、役職から判断します。
- 例:取締役・部長クラス(高)、担当者クラス(中)
- 課題感(Need):
- 会話メモから読み取れる、自社製品で解決できる課題の有無やその深刻度から判断します。
- 例:具体的な導入時期や予算に言及(高)、情報収集段階(中)
重み付けの考え方
3つの軸に均等に点を割り振るのではなく、自社の営業戦略に合わせて重み付けを調整します。例えば、決裁者へのアプローチを重視するなら「役職」の比重を高めます。
| 項目 | 評価基準 | スコア例 |
|---|---|---|
| 役職 | 決裁権者(役員・本部長) | 10 |
| 部門長・課長クラス | 5 | |
| 担当者クラス | 2 | |
| 興味度 | 具体的な課題相談あり | 10 |
| デモに長時間参加 | 5 | |
| 資料請求のみ | 2 | |
| 課題感 | 予算・導入時期に言及 | 10 |
| 関連課題について言及 | 5 | |
| 一般的な情報収集 | 2 |
AIに任せる計算/人が決める基準
- AIに任せる計算: 上記で定義されたルールセットに基づき、各リードの合計スコアを自動計算させます。これにより、大量のリードを迅速かつ客観的に評価できます。
- 人が決める基準: どの項目を、どのように評価し、何点を与えるかという「スコアリングの基準」そのものは、営業戦略に基づいて人が設計する必要があります。この基準こそが、営業の精度を左右する核となります。
お礼&提案ドラフト生成

スコアリングによって優先順位付けされたリードに対し、パーソナライズされたアプローチを開始します。
お礼メールの構造
お礼メールは、以下の要素で構成し、テンプレート感を払拭します。
- 件名: 「【[自社名]】展示会のお礼([相手の会社名] [相手の氏名]様)」のように、誰からの何のメールか一目でわかるようにします。
- 冒頭の挨拶: 展示会で名刺交換したことへのお礼を述べます。
- 個別性の高い言及: 展示会での会話内容や、相手が興味を示していた製品・サービスについて具体的に触れます。「〇〇の課題についてお話しいただき、ありがとうございました」など。
- 提供価値の提示: 会話内容に基づき、相手にとって有益な情報(類似事例、関連資料など)を提示します。
- 次のアクションの提案: 「より詳しいご説明のため、一度オンラインでお時間をいただけませんでしょうか」など、具体的な次のステップを提示します。
展示会文脈を活かす文章設計
AIにメール文案を生成させる際、プロンプトに「名刺情報」「会話メモ」「スコア」を含めることで、展示会の文脈を反映したパーソナルな文章を作成させます。
プロンプト例: `以下の情報に基づき、展示会のお礼メールのドラフトを作成してください。
- 会社名: 株式会社〇〇
- 氏名: 〇〇様
- 役職: 営業部長
- 会話メモ: 新規事業のリード獲得に課題。現在のCRMの連携に不満。予算は来期に確保予定。
- スコア: 25点(高)`
パーソナライズと定型文の分離
メール全体をAIに生成させるのではなく、パーソナライズが必要な「会話内容の振り返り」や「提案の核」となる部分をAIにドラフトさせ、挨拶や署名などの定型部分はあらかじめ用意しておくことで、効率と品質を両立します。
人の承認プロセス
AIが生成したドラフトは、あくまで「下書き」です。必ず営業担当者が内容を確認し、事実誤認がないか、失礼な表現がないか、そして何より「心が通っているか」をチェックした上で、自身の言葉として修正し、送信します。この承認プロセスが、顧客との信頼関係を築く上で不可欠です。
CRM登録と連動

一連のフローで得られた情報は、CRM(顧客関係管理)システムに集約して初めて資産となります。
スコアとステータス管理
- スコアの記録: 各リードに付与されたスコアをCRMに記録し、営業担当者がアプローチの優先順位を判断できるようにします。
- ステータスの更新: 「未対応」「アプローチ中」「商談化」「失注」など、フォローの進捗状況をリアルタイムで更新し、チーム全体で共有します。
フォロー期限の設定
高スコアのリードには「3営業日以内に架電」、中スコアのリードには「1週間以内にメール」など、スコアに応じたフォロー期限をタスクとしてCRMに自動設定します。これにより、対応漏れを防ぎます。
属人化を防ぐ設計
誰が、いつ、どのような会話をし、どんな提案をしたのか、全ての活動履歴をCRMに記録することで、担当者が不在・退職した場合でも、他のメンバーがスムーズに引き継げる体制を構築します。これにより、名刺情報は個人のものではなく、組織の資産となります。営業活動の再現性を高めるためには、このような情報基盤の整備が欠かせません。ご不明な点があれば、お気軽にContactよりご相談ください。
よくある失敗パターン
- 名刺管理だけで終わる: 名刺をデータ化しただけで満足してしまい、その後のアクションに繋がらない。
- スコアリング設計をしない: 全てのリードに同じアプローチを続け、リソースを浪費してしまう。
- AIに丸投げする: 生成された文章を無批判に利用し、顧客との関係を損なう。AIはあくまで補助役です。
- CRMと連動しない: フォロー活動が記録されず、結局は属人化から抜け出せない。
まとめ
- 展示会後フォローは営業設計の問題: 失速の原因は、担当者の怠慢ではなく、フォローの仕組みが設計されていないことにあります。
- AIは判断者ではなく整理役: AIは、人が定めた基準に基づき、情報を整理・計算し、ドラフトを作成する補助役として最も価値を発揮します。
- スコアリングと承認が品質を担保する: 客観的なスコアリングで優先順位を決め、人の承認プロセスで最終的な品質を担保する「半自動」の思想が、成果に繋がります。
展示会後フォロー設計のご相談はContactよりお気軽にお問い合わせください。

