Webサイトのアクセシビリティ対応、特にWCAGの適合レベルAA準拠は、多くの企業にとって「必要性は理解しているが、どこから手をつければいいかわからない」という大きな課題ではないでしょうか。一気に完璧を目指そうとして、途中で挫折してしまった経験はありませんか?
本記事では、アクセシビリティAA達成を「現実的な60日間の運用プロジェクト」として捉え、具体的なロードマップとタスク、そしてチーム内の役割分担を解説します。理念や概念だけでなく、「誰が・いつ・何をやるか」を明確にすることで、着実に達成可能な道筋を示します。
より根本的な思想や背景については、当サイトの「アクセシビリティ本編」の記事もぜひご参照ください。
なぜアクセシビリティ対応は「一気にやると失敗する」のか
アクセシビリティ対応が失敗に終わる最大の理由は、完璧主義にあります。WCAGの達成基準は多岐にわたり、すべてを一度に修正しようとすると、膨大な工数とコストに圧倒されてしまいます。
重要なのは、アクセシビリティを「一度きりのプロジェクト」ではなく、「継続的な運用改善」と捉えることです。 そのために、優先順位をつけ、段階的に改善を進める運用ロードマップが不可欠なのです。
セクション1:60日で達成する全体像
60日間という現実的な期間でAA達成を目指すため、プロジェクトを3つのフェーズに分割します。
| フェーズ | 期間 | 主な目的 |
|---|---|---|
| フェーズ1:現状把握と計画策定 | 0日目~14日目 | 課題の洗い出しと優先順位付け、チーム体制の構築 |
| フェーズ2:技術的・デザイン的基盤の修正 | 15日目~30日目 | 影響範囲が広く、技術的な修正が必要な項目の改善 |
| フェーズ3:コンテンツの修正と運用定着 | 31日目~60日目 | 個別ページのコンテンツ修正と、継続的な改善サイクルの確立 |
このロードマップでは、対応を以下の3種類に分類して整理します。
- 技術対応: HTMLの構造、キーボード操作、ARIA属性など、サイトの基盤に関わる修正。
- デザイン対応: 色のコントラスト、フォーカス表示、ターゲットサイズなど、視覚的なデザインに関わる修正。
- 運用対応: 代替テキストの記述、コンテンツの分かりやすさなど、日々の更新で対応が必要な項目。
セクション2:週次タスクの具体例
各フェーズにおける具体的な週次タスクを分類別に示します。
フェーズ1:現状把握と計画策定 (Week 1-2)
- HTML: 自動検証ツール(Lighthouse, axeなど)でサイト全体をスキャンし、機械的に検出可能な問題(構造、idの重複など)をリストアップ。
- CSS: コントラスト比が基準(4.5:1)を満たしていない箇所を特定。
- JS: キーボードのみで全ての操作が可能か、主要なページで手動テストを実施。
- コンテンツ: スクリーンリーダー(NVDAなど)を使い、主要ページの読み上げを確認。画像の代替テキストが適切か、意味のある順序で読み上げられるかなどをチェック。
フェーズ2:技術的・デザイン的基盤の修正 (Week 3-4)
- HTML: 見出しレベルの順序を修正。意味的に不適切なHTMLタグ(例:レイアウト目的の
<table>)を修正。 - CSS: 全サイト共通のCSSを修正し、文字色と背景色のコントラスト比を確保。フォーカスインジケーターが明確に表示されるように修正。
- JS: キーボード操作でドロップダウンメニューやモーダルウィンドウが操作できるように修正。
- コンテンツ: –
フェーズ3:コンテンツの修正と運用定着 (Week 5-8)
- HTML: -原則対応なし。新規ページ追加時は、フェーズ2で整備した構造ルールに従う。
- CSS: -原則対応なし。コンテンツ追加に伴う軽微な表示崩れのみ調整。
- JS: -原則対応なし。新規インタラクション追加時はキーボード操作・フォーカス制御を確認。
- コンテンツ: フェーズ1で洗い出した各ページの画像に、意味が伝わる代替テキストを設定。 リンクテキストを「こちら」のような曖昧な表現から、リンク先が分かる具体的な記述に修正。動画コンテンツにキャプションを追加。
セクション3:役割分担と担当分解
アクセシビリティはチーム全員で取り組むべき課題です。 各担当者の役割を明確にしましょう。
| 担当者 | 主な役割 | 社内/外注の判断 |
|---|---|---|
| Webディレクター | 全体進捗管理、課題の優先順位付け、チーム間の調整、アクセシビリティ方針の策定。 | 社内推奨 |
| デザイナー | コントラスト比の確保、フォーカスデザインの作成、ターゲットサイズの確保など、UIデザイン全般の修正。 | 社内 or 外注 |
| エンジニア | HTMLのセマンティックなマークアップ、キーボード操作の担保、ARIA属性の適切な実装など、技術的な実装全般。 | 社内 or 外注 |
| 運用担当 | 画像の代替テキスト作成、コンテンツの分かりやすいライティング、公開前の簡易チェック。 | 社内推奨 |
切り分けのポイント: サイトの技術的負債が大きい場合や、専門知識を持つ人材がいない場合は、フェーズ2の技術・デザイン修正を専門の制作会社に外注するのが効率的です。一方、日々のコンテンツ更新に関わる運用対応は、内製化してノウハウを蓄積することが、長期的な品質維持につながります。
セクション4:検証ツールとチェック方法
効率的な検証には、自動検証ツールと手動チェックの組み合わせが不可欠です。
- 自動検証ツール (axe, WAVEなど):
- 役割: コントラスト比、HTML構造のエラー、代替テキストの有無など、機械的に判断できる問題を「広く」「速く」発見する。
- 限界: あくまで機械的なチェックであり、文脈や意味の妥当性までは判断できません。例えば、
alt="image"のような無意味な代替テキストは見逃されてしまいます。
- 手動チェック (スクリーンリーダー、キーボード操作):
- 役割: 「キーボードだけで操作が完結するか」「スクリーンリーダーで読み上げられたときに意味が通じるか」など、実際のユーザー体験を通して「深く」「丁寧に」検証する。
- ツールでは見つからない項目例:
- ナビゲーションの順序が論理的か
- 代替テキストが画像の文脈を正確に伝えているか
- エラーメッセージが分かりやすく、修正方法を提示しているか
まとめ:アクセシビリティは“ジャーニー”である
60日間のロードマップは、アクセシビリティAA達成に向けた現実的な第一歩です。しかし、これはゴールではありません。一度達成しても、サイトの更新や機能追加によって、新たな問題が発生する可能性があります。
重要なのは、アクセシビリティを「一度きりのプロジェクト」ではなく「継続的な改善活動」として組織文化に根付かせることです。 定期的な監査と、日々の運用の中でのチェックを習慣化し、誰もがアクセスしやすいWebサイトを育てていきましょう。
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